心に副作用はあるの・・・? ~モンスター・スタディーと呼ばれる吃音(きつおん)実験から~

この「Cの分類の子ども達」に対して、派遣されたテューダーは、子ども達と話をしている時に、子ども達がほんの少しでも言葉に戸惑ったり、言葉の繰り返しをするだけでも、「そのままでは、あなたはひどい吃音になる」と、その都度、子ども達に繰り返し繰り返し指摘し続けていきます。
言わば、

 

あなたは既に吃音である!

 

との「暗示」をかけ続けるという行為を行っていきました。
そして、孤児院という性質上、24時間の生活を共にする教師や寮母にも、同様の指摘を子ども達にし続けさせました。
そして、このような人体実験が進んでいくに連れて、対象の子ども達に「異常な行動」が頻繁に見られるようになっていきました。
それは、例えば、話す時に、

 

言葉が出てこないと指を鳴らす・・・
体を揺する・・・
壁に頭を打ちつける・・・

 

など。
そして、このような人体実験が終わりに差し掛かる1939年5月24日に、ジョンソンは「初めて」自らで孤児院を訪れました。
そして、派遣されていたテューダーから、

 

吃音のラベル付けをした全員が、話す事に障がいを生じるようになっていた

 

との記録を渡されました。
そして、最後に、対象とされた「Cの分類の子ども達」6人に対して、検査が行われましたが、

・ 以前よりも話し方の流暢さがひどくなった 2人
・ 以前と比較して変化なし 2人
・ 以前よりも話し方の流暢さが向上した 2人

と分類され、最終的に言語聴覚士により下されたのは・・・

 

6人とも吃音ではない!

 

との最終判定でした。
このような判定にジョンソンは愕然としましたが、自らの説があくまで正しくて、実験結果の方が間違っている、との自らの考え・思い込みに固執し、その後も、孤児院の教師や寮母に今迄と同様に吃音の指摘を続けさせました。

そして、1941年1月に、孤児院からジョンソンの元に1通の手紙が届きました。
そこには・・・

 

被験者の子どもの一人が、吃音を怖れ、口をきかなくなってしまった・・・

 

と記されておりました。
そこで、ジョンソンは指摘を止めさせるよう告げましたが、子どもの一人が吃音になった事で、

 

自らの説が正しい!との思い込みを増していった・・・

 

という状況に突き進んで行きます。
そして、その後の状況に変化が訪れました。
それは、1942年4月に、ナチスによるユダヤ人に対する毒ガス人体実験が行われていた事が世間に公表されました。
それに対して世間から批判や非難がなされた事により、ジョンソンがこれからも仕事を続けていく為には、自らの行った人体実験を無かったものにし、テューダーの残した論文を、ごく一部の人の目にしか触れないように封印し発表を行いませんでした・・・
そして、このような一連の人体実験行為をジョンソン自らの手で闇に葬った事に対して、

 

心理学史上における「モンスター・スタディー」

 

と呼ばれる所以となっていきました。
そして、このケ-スが「モンスター・スタディー」と呼ばれる真の理由とは、

 

この人体実験の目的を、始めから終わりまで、孤児院の教師と寮母、そして、対象の子ども達にも一切知らされていなかった・・・

 

という点です。
当然の事ながら、孤児院の教師や寮母は吃音を改善させる為に、吃音を指摘し続けるという、子ども達にとって良かれと思って行っていた事ですし、言語聴覚士による最終判定の「6人とも吃音ではない!」との結論も、教師や寮母のみならず、当の子ども達にも一切知らされる事はありませんでした・・・
そして、先ほどの孤児院からの手紙が届いた際にも、この期に及んでも目的を知らせずに、ただ指摘を止めるように、と告げただけでした・・・

まだこのお話は続いていきますので、気疲れを感じている方がいらっしゃれば、どうぞご休憩下さい(笑)