後半:心の軸を保つ ~E・キューブラー・ロス氏とPCIT(親子相互交流療法)から~

次は、第三段階の「取り引き」についてです。

『 第三段階である取り引きの段階は、あまり知られておらず、かつまた期間は短いが、患者にとって同じように助けとなる。

  もしわれわれが第一段階で悲しい事実に直面することができず、第二段階で人々と神とに対して憤りをぶつけたとすれば、つぎには、人々ないし神に対してなにかの申し出をし、なんらかの約束を結ぶことを思いつくだろう。

  取り引きである。

  神となんらかの取り引きができれば、もしかすると、この悲しい不可避の出来事をもうすこし先へ延ばせるかもしれない、と。

  (中略)

  患者は過去の経験からして、よい振る舞いをすればそれだけの報償があり、特別サービスへの願望がかなえてもらえる、かすかなチャンスがあることを知っている。
  特別サービスへの願望とは何か。

  それはほとんどつねに延命の願望である。

  延命願望のつぎに大きいのは、痛みと肉体的不快のない日があと幾日か欲しいという願望である。 』

 

『 たいていの取り引きは神とのあいだになされ、ふつう秘密とされるか、言外にのべられるか、でなければ牧師の私室にしまいこまれる。
  外に聴者のいない患者とわたしたちだけでのインタビューでは、驚くほど多数の患者が、多少の延命と交換に、 ” 神に生涯を捧げる ” 、あるいは ” 教会への奉仕に一生を捧げる ” 約束をした。
  わたしたちの患者の多くはまた、(もし医師がその科学知識をかれらの生命を延ばすために使用してくれるならば、)肉体の一部を ” 科学 ” に与えてもいいと約束した。

  (中略)

  こうしてわたしたちは患者の心の悩みを探り続け、患者の不合理な恐怖感、あるいは罰せられたい願望を解放してやるようにする。
  この不合理な恐怖感や罰せられたい願望というのは、二度三度と取り引きをくり返すことによって、また ” 期限 ” がきても約束を守らず、それによって過度の罪責感が強まる一方となり、そのため生じてきたものなのである。 』