【 右肩上がりだけが成長ではない 】
最初は無料だった手術費用も、次第に料金が上がり、最終的に約860万円ほどに「跳ね上がり」ました。
しかし、1926年の1年間だけで、1、000人以上が手術を受けました。
そして、術式も30人を超える弟子達に教え、世界15カ国に広がりを見せます。
こうして、ボロノフは更なる冨と名声を得て、パリの社交界でも「人気者」となりました。
そして1926年、フランス政府から最高の栄誉「レジオンドヌール勲章」を授けられました。
この時、ボロノフ60歳、、、
その後、フランス政府の要請を受け、植民地のアルジェリアで3、000頭の羊を対象とした、羊毛と羊肉の「増産プロジェクト」をボロノフは任されます。
1917年の羊の実験では、若返らせる事が「目的」でした。
しかし、今度は若返り手術で、より「生産性の高い」品種を作り出す事が「目的」になります。
その「手段」として、生後3~4ケ月の子羊に、発情期を迎えた若い羊の精巣を貼り付けました。
そして、1年後に「成長」した子羊に子どもを産ませ、第2世代を作りました。
更に、その第2世代の子羊に精巣の貼り付けを「繰り返して」いきました。
つまり、このプロジェクトの「真の目的」は、元気で体格の良い「スーパーシープ(羊)」を作る計画でした、、、
そして、第3世代では明らかな違いが見られ、手術を受けていない羊と比較すると、平均体重が8キロ以上重く、羊毛では500グラム多くなったとボロノフは報告します。
これで「理論的」には、スーパーシープ5、000頭で食肉35トン、羊毛2、500キログラムの増産になると、ボロノフは「豪語」しました、、、
ところで、日本でも、世界でも、
右肩上がりの経済成長ばかりを追い求めている
のが現状です。
日本ではバブル崩壊、世界ではリーマンショックを「経験」しました。
そして、確かにお金は大切で必要な面があるのも、事実です。
しかし、
衣食住はお金で「買える」が・・・
お金は衣食住の「代わり」にはならない・・・
という視点を、改めて伝えます、、、
【 蜘蛛の子を散らすボロノフの晩年 】
1927年、イギリスを中心とする6カ国が、ボロノフの実験に対する調査団を組みました。
その中で、イギリスのエジンバラ大学の動物育種研究所所長フランシス・クルーが「疑念」を抱きます。
クルーが目を付けたのが、グループ分けした羊の「データ」が明らかにされていない点でした。
科学の実験では、手術した羊と、手術していない羊は、ランダムに選ばなければならない「決まり」があります。
もし、最初から立派な体格の羊だけを「選んで」手術すれば、手術の効果に関係なく、体格の大きい子羊が生まれるのが自然の理だからです。
そこで、クルーは自らで再現実験を行った所、結果は全て失敗でした。
故に、決定的な証拠を見つけるのは「不可能」と、クルーは結論付けました。
更に1年後、クルーの元にフランス領モロッコの獣医であり、現地の繁殖ステーション所長アンリ・ヴリュから手紙が届きました。
手紙には、ボロノフの実験をヴリュも追試した所、同じく効果無しと書かれていました。
そして、ヴリュは手術した羊の精巣を顕微鏡で確かめた所、貼り付けた精巣は「死滅、若しくは、消滅」していました。
つまり、権威だったルテレールの報告も「間違い」という事が判明しました、、、
同じ頃、ボロノフと同じ手法の羊毛増産プロジェクトが、南アフリカとオーストラリアで行われていましたが、何一つ有益な結果が得られず、1930年に南アフリカ、1931年にオーストラリアが実験を中止します。
こうして、実験の「内容と結果」が世界中に広く知れ渡り、ボロノフの「信頼と権威」は失墜します。
更に1930年代に入ると、若返り手術も急激に「信用」を失い、弟子達も手術をしなくなりました。
こうして、ボロノフは「忘れ去られ」ました、、、
ところで、実験の「内容」は「手段」と言い換える事が出来ます。
では、
実験の「結果」と「目的」の関係は、どうでしょうか???
これに関しては、自由に「考えて」下さい!!!