所変われば品変わる ~刑務所から考える多様性~:世界一豪華な刑務所より

刑務官:
『 贅沢だと言う批判を聞きますが、ここは刑務所です。
  受刑者は勝手に出歩けませんし、いつ、どこへ行くかは刑務官が指示します。
  重要なのは私達が彼らを大切に扱い、敬意を持って接している事。
  贅沢な部分があるとしたら、それは彼らを人道的に扱っている点でしょう。 』

 

次は、18年もの刑務官歴があり、このハルデン刑務所の創設から勤務している男性の方の「考え」です!

刑務官:
『 刑務官の仕事は人を責める事ではありません。
  我々が接するのは性犯罪者や麻薬中毒者、殺人犯、ありとあらゆる犯罪者です。
  私がここにいるのは出所後にうまくやっていけるよう彼らを手助けする為に他なりません。
  ノルウェーには死刑制度がありませんし、終身刑もありません。
  彼らはいずれ社会に戻って行くんです。 』

 

そして、イギリスでは再犯率が70%近い事に対し、ノルウェーでの再犯率はここ5年で25%と世界で最も低い事について刑務所の所長が次のように分析しています。

刑務所長:
『 しかし、常にうまくいっていた訳ではありません。
  私が刑務官の仕事に就いた80年代は(再犯率が)60~70%くらいでした。
  70年代から80年代、刑務官は単なる看守に過ぎませんでした。
  監視と警備だけに携わっていたんです。
  しかし、90年代半ば、刑務官全体の職務が大きく変わりました。
  受刑者を助け、彼らを更生させる事が求められるようになったんです。
  今、我々はソーシャルワーカーのような役割も担っているんです。 』

 

と、ここ迄の3名はいずれも言わば刑務所側の立場の方々ではありますが、先の職業訓練の一環として、月に一度ラジオプロデューサーが来て、受刑者が刑務所暮らしの不満などを訴えたりなど、受刑者が自ら発信するトーク番組も制作されています。
そのプロデューサーの方は次のように述べております。

ラジオプロデューサー:
『 他の国と同様にノルウェーでも犯罪に対する罰は服役です。
  受刑者は自由を奪われ、自分で物事を決める権利も失います。
  (ラジオを制作する)スタジオがあるとか、綺麗な部屋とか、それは大した事じゃなく、本質的に彼らを支援する事とは何か、中世なら一生牢屋に閉じ込めておけばいいでしょうが、今は違います。
  彼らはいずれ出所し、社会復帰して私達の隣人になるんです。
  狭い監房に閉じ込め、15年後に釈放すればそれでいいと思いますか?
  コミュニケーションが大切です。
  それまで怒鳴ったり、殴り合ったり、ほんの些細な事でカッとなっていた彼らが、今では意見を語り合っている。 』

 

このようにアン氏の3日間のハルデン刑務所の見学も終わりを迎えますが、今回の経験についてアン氏は次のように総括しています。

アン氏:
『 賭けをするならどちらにしますか?
  出所者が更生出来るのは、この刑務所か?イギリスの刑務所か?
  私なら迷う事なく、ここを出所した人物に賭けますね。

  受刑者の更生を柱に据える事は理にかなっています。
  私はずっと訴え続けてきましたが、誰も耳を貸してくれません
  でも、これが市民の安全を守る方法、税金を無駄なく使う方法なんです。

ここで見たものは示唆に富むものでした。
  興味深かったですねぇ。
  この刑務所について見習うべき点がある事は確かです。
  実社会の工場を模した作業場は素晴らしいですし、イギリスの刑務所もかくあるべしと思いました。
  しかし、ここの人道的に受刑者を扱うという方針は非常に費用の掛かるものです。
  大いに賛成したい所ですが、私は過去に嫌というほど経験して来ました。
  素晴らしいプロジェクトや、他に類の無い画期的な事例の話は昔から山のように聞かされています。
  でも数年後、統計データがまとめられると、それらはいずれも残念な結果に終わっているんです。 』

 

そして、現実としてはノルウェー政府もこの刑務所を推進している所まではいっていないそうです。
それは、再犯率の低下が本当に有効なものとなっているのかも勿論ですが、やはり、建設費に莫大な額(税金)が掛かるからだそうです。
このような背景も元にして、アン氏の締め括りは以下のものでした。