迷いや悩みには丁寧という側面もある ~元裁判官から学ぶ視点~

では、話を戻しますが、木谷 氏の父は日本囲碁界の父と呼ばれた人(木谷 實 氏)だそうで、家には15人程のお弟子さんがいて寝食を共にし、7人兄弟(姉妹)でもあるそうで、お兄さんは木谷 氏に対してしょっちゅうからかったりおっちょくったりしていたそうです。
それに負けまいと木谷 氏が刃向かっていったそうですが、忙しくて事情も何も知らない母は結果だけを見て兄の肩を持ち、木谷 氏が怒られる事の方が多かったそうです。
そのような経験から、、、

木谷 氏:
『 こりゃダメだと、後からね、裁判に(おける)やっぱり被告人の言い分をよく聞かなきゃいけないというのは、この辺が影響しているんじゃないかなぁって気がするの。
  本当はどうかは分かりませんよ。
  でも後から思うとそうじゃないかなぁと。
  やっぱり犯罪には必ず動機があり、背景事情がある、それをちゃんと聞き出さなければ、正しい裁判は出来ないはずだ、と。 』

 

ところで、このTOPICSでも次の事をよくお伝えしております。

 

最も問われるのは真の動機である・・・

 

と。
そして、今回の締め括りの箇所にも出て参りますが、

 

「思い・言葉・行動」の一貫性を保つ事に関係しているのも・・・

真の動機である・・・

 

という事になります、、、

木谷 氏は22歳の時に司法試験に合格し、先の幼少期の体験などから弱い立場の人を理解し、公正に判断出来る仕事がしたいとの思いから裁判官になったそうです。
そして、東京地方裁判所の判事補として仕事が始まっていきますが、実際の裁判では充分な審議もなされず、検察側の調書を追認するだけという現場を目の当たりにしていったそうです。

このような状況の中、《 自問自答 》を繰り返している所に、樋口 勝 氏という裁判官と出逢い、樋口 氏が裁判長となり、木谷 氏は側に座る陪席裁判官の日々を過ごすようになっていきます。
この樋口 氏はとても厳しい事で裁判官仲間では有名だったそうで、その陪席を務める木谷 氏にも同情の声が多数上がっていたそうです。
そして、しょっちゅう判決文を手厳しく修正されたり、よく怒られていたそうです(笑)

 

ただ、樋口 氏は法廷の場で被告人が話し辛そうな場合には尋問の場所を変えてあげたり、被告人とは呼ばずに○○さんとちゃんと名前で呼んだり、相手の目をちゃんと見て、被告人の声を徹底的に聴くというのを姿勢としており、木谷 氏は色々な事を教わり学んでいったそうです、、、

木谷 氏:
『 (樋口 氏は)被告人にキチッとものを言わせようという気持ちが強かったですね。
  被告人が法廷でモジモジしながら何もありませんという風な事を言うとね、やっぱり(樋口 氏は)何か機嫌が悪いんですよ。
  それで何か言いたい事があったら言いなさいという事で、凄く色々ね、聴く、と。

  被告人は自分で言いたい事を必ずしも捜査の段階では聴いて貰ってないんですよ。
  言おうとしてもなかなかお前の言う事なんか問題にならないという事で、ポンポン蹴られちゃいますから。
  裁判になったら本当の事を言いたいんだと、聞いて貰いたいんだという気持ちで(被告人は)法廷に入りますから。

 

  それを裁判官が本気になって聴いてやると、聴いて上げると、聴かせて貰う、と。
  それが意外と難しいんですよ。
  もう(何を)言ったってどうせダメなんだよという事で(被告人は)口を閉ざしちゃう、心を閉ざしちゃう、そういう被告人が一杯います。
  その閉ざしちゃった被告人の心を開かせるという事が意外に難しいんです。

  それこそ上から見下ろすような視線ではダメなんですね。
  対等の人間として聴いて上げると、聴かせて貰うという事が必要なんですね。
  それを(樋口 氏との経験から)つくづくと感じました。 』