安楽死が見据える先にあるもの:後半 ~介護サービスとの関係を考える~

【 議論が続く精神疾患 】

現在、最も議論が続いているのが、精神障害を抱える患者達が、

 

《 安楽死の対象(者)から、精神疾患(者)を除外しているのは憲法違反 》

 

との訴えを起こした事に起因します。

 

 

その内の一人が、男性ジョン・スカリー(84歳)です。

ジョンは元ジャーナリストで、中東や旧ユーゴスラビアなど、36の紛争地帯を取材しました。

しかし、現地では死を覚悟する経験が幾度も重なり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や鬱病など、複数の精神疾患を発症しました。

そして、様々な治療を試みたものの効果が出ず、2度の自殺未遂も実行した事に関し、ジョンは話します、、、

 

ジョン:
『 残酷な悪夢を見て、夜中に大声で叫ぶ事もあります。 もう二度と、こんな目に遭いたくないと神に願うのです。 そして、自殺という考えに至りました。 PTSDは、私の人生を支配しています。 自殺を選択肢から外して欲しい。 死に方を選べるのは人の権利です。 』

 

そして、ジョンの妻トニーは話します、、、

 

トニー:
『 夫には、安楽死をする権利があると思います。 家に帰ったら(自殺で)死んでいたなんて事は、避けたいのです。 』

 

そして、「どこまで」安楽死の対象者を認めるかの議論は、現在も続いています、、、

 

 

【 制度が拒む落とし穴 】

男性ミハル・カリシャン(42歳)は、生後間もなく脊髄性筋萎縮症を発症しました。

故に、日常生活では電動車椅子を利用しています。

ミハルの父は早くに他界したものの、長年に渡り母がミハルの世話をしていました。

しかし、2022年に母が他界した時、

 

ミハルは自分が障害者である事を痛感し・・・

命の危機を感じた・・・

 

と心中を吐露します。

なぜなら、

 

日常生活もままならなくなり・・・

十分な支援が受けられるかも不透明・・・

 

だったからです。

 

 

そして、ミハルには、以下の3つの選択肢が与えられました、、、

 

○ 24時間体制の在宅介護

○ 長期介護施設への入居

○  安楽死

 

しかし、長期介護施設への入居では、一から集団生活を始めざるを得ず、プライベートな時間も空間も保つ事が難しい懸念がありました。

また、ミハルは肺機能が低下しているが故に、当時の新型コロナやインフルエンザの罹患による、命の危険性がありました。

故に、長期介護施設への入居は「現実味」がなく、却下しました。

 

そして、ミハルは母の世話を受ける以外に、在宅介護の公的資金援助も受けていました。

しかし、母が他界した「事情」は考慮されず、在宅介護の追加支援を求めるものの、拒否されました。

つまり、ミハルが母から受けた世話をカバーする、更なる在宅介護が必要であれば、

 

長期介護施設への入居以外に・・・

制度上は選択肢がない・・・

 

という状況に「追い込まれ」ました、、、

 

 

【 心身共に消耗するエネルギー 】

しかし、ミハルは諦めずに色々と相談を持ち掛けたり、試行錯誤に取り組みました。

そのような折、障害者の自立を支援する機関から次の言葉を言われ、衝撃とショックを受けたとミハルは話します、、、

 

ミハル:
『 「 私達はベビーシッターではない。 」「 下剤を飲んでオムツをすればいい。 」と言われた事でした。 屈辱でした。 尊重されていないと感じました。 』

 

そして、ミハルが望む24時間体制の在宅介護を受ける場合には、月に約260万円が必要になります。

しかし、行政からの支援の上限は約60万円なので、到底足りません。

そこで、不足分を補う為にクラウドファンディングで支援を呼び掛けたものの、4ヶ月分に満たない金額しか集まりませんでした。

 

故に、ミハルは《 在宅介護がないと死んでしまう 》との嘆願書を作成し、数ヶ月に渡り行政に訴え続けました。

この頃の心身の状況に関し、ミハルは話します、、、

 

ミハル:
『 週40時間の仕事に加え、この地球上で生存する方法を模索する日々でした。 何ケ月も格闘を続けましたが、出来る事は限られていました。 心身のエネルギーも尽きました。 自宅で過ごす方法が見つからず、必然的に安楽死が唯一の選択肢となりました。 』

 

 

【 制度が安楽死へ誘導する 】

母の死から半年後、他に方法もなく、「切羽詰まった」ミハルは安楽死を申請しました。

すると、安楽死を申請する書類は、3ページしかありませんでした。

しかも、最後のページは署名用なので、実質は2ページだけです。

 

一方、在宅介護を申請する際には、100ページ以上の資料が必要になります。

安楽死と在宅介護の申請書類に関する、あまりにも「露骨な格差」を目にし、ミハルは話します、、、

 

ミハル:
『 全てのシステム(制度)が、私の気持ちに反して設計されていると感じました。 「 この選択肢(安楽死)の方が、ずっと簡単だろう。 」と言われているようでした。 私には、誘導されているように感じました。 』

 

 

しかし、ミハルは「必死」の交渉を重ねた末、例外的措置として更なる援助が受けられる事になりました。

ただ、在宅介護のスケジュールも「他人任せ」にせず、全て自分で決める必要性があります。

なぜなら、

 

仮に介護士が病気や休暇で来られない事態が生じると・・・

ミハルには死活問題・・・

 

だからです。

こうして、長年勤務しているITの仕事も、引き続き自宅で取り組む事が可能となり、現在は在宅介護を受けつつ、一人で生活を送る事が出来ている事に関し、ミハルは話します、、、

 

ミハル:
『 トンネルの先に光が見えたような、希望が見えたような気がしました。 最後の瞬間まで、解決策を模索し続けようと思えました。 今は在宅介護が受けられています。 安楽死は必要ありません。 問題や不満もありますが、選択肢がなくなったと感じるほどではありません。 』

 

 

【 介護難民の増加も関係 】

ミハルのように、制度を「享受」する事が出来ているケースがある一方で、

 

在宅介護を必要とする人に・・・

支援が行き届いていない・・・

 

という問題が「頻発」しています。

 

女性アン・コール(91歳)は重い心臓疾患を抱え、一人では買物などの外出が出来ません。

故に、在宅介護士の協同組合から週3日、1日2時間の在宅介護を受けているものの、自己負担が月に10万円に及び、これ以上の自己負担は難しい状況にあります。

そこで、行政に不足分の介護サービスを求めたものの、拒否されました。

その理由が、

 

着替えやシャワーを自分(一人)で出来るから

 

でした。

つまり、裏を返すと、

 

自分(一人)で出来ない事が・・・

介護サービスを受けられる条件・・・

 

という事です。

 

そして、アンが安楽死を申請した所、

 

1ヶ月半で許可が下りる

 

というスピードでした。

 

 

そして、アンをサポートしている、在宅介護士の協同組合の代表ダニエル・ターピンは話します、、、

 

ダニエル:
『 必要な介護を受けられず、苦労している人がたくさんいます。 公的な介護には、かなり厳しい基準があります。 ただ生きる為だけの、必要最低限介護に限られているのです。 受けられる介護の種類やタイミング、日数、内容については、ほとんど選択の余地がありません。 それが最大の課題だと思います。 』

 

そして、介護の需要に対し、介護士の供給がかなり不足している事から、現状では数万人規模が支援を受けられず、多くの「介護難民」が生じています。

更に、介護士が社会や行政から正しく「評価」されず、低賃金かつ不安定な雇用状態であるが故に、辞める人も多いという実態もあり、ダニエルは話します、、、

 

ダニエル:
『 人々が安楽死を選ぶのは、必要な支援が提供されていないからではないでしょうか、、、 』