【 譲らない3人のキリスト 】
1人目の患者は、ジョセフ・カッセル(58歳)です。
ジョセフには、父から虐待を受けていた過去がありました。
そして、英文学への興味を禁じられた事から、逆に作家志望になりました。
2人目の患者は、クライド・ベンソン(70歳)です。
クライドには、妻が中絶で死亡した過去がありました。
それが元でアルコール依存症になり、逮捕された事がある元受刑者です。
3人目の患者は、レオン・ガボール(38歳)です。
レオンには、厳格なクリスチャンの母から、育児放棄を受けた過去がありました。
そして、独身のインテリでした。

そして、ロキーチは実験を開始する際、
3人には自分達が被験者である事も・・・
実験の目的も明かさなかった・・・
という方針で進めました。
そして、妄想型統合失調症と診断された3人は、1959年7月1日から病院内で共同生活を開始させられました。
寝室も同じで、ベッドも隣り合わせに並べられました。
更に、食事をするのも一緒、病院内で割り当てられた作業も同じ洗濯係でした。
故に、否が応でも、長時間を共に過ごす事になりました、、、

そして、ロキーチと3人の間で毎日ミーティングが開かれ、お互いに会話をするようロキーチは仕向けました。
なぜなら、ロキーチには、
3人それぞれに・・・
自分の主張の矛盾を突き付ける・・・
という狙いがあったからです。
つまり、
目の前の人がキリストであるとすれば・・・
自分はキリストでは無い・・・
という事実に、気づけるか否かを観察する為でした。

一番最初のミーティングでは、それぞれに本名を名乗らせたものの、同時にそれぞれがキリストだと主張しました。
お互いに主張を譲らない事から、当然ながら毎日が口論やぶつかり合いになり、時に殴り合いになる事もありました。
そこで、ロキーチは個別面談を行い、他の2人をどのように受け止めているのかを、それぞれから聞き出す事にしました、、、
クライド:
『 2人は本当は死んでいる。 中に入った機械がしゃべっている。 』
ジョセフ:
『 2人は治療中だ。 信じてはいけない。 』
レオン:
『 彼らは取るに足らない神に過ぎない。 』
やはり、自分だけがキリストであり、その主張は正しく、他の2人は誤っていると譲りませんでした、、、

【 3人を煽るロキーチ 】
しかし、実験開始から1ヶ月半が過ぎた頃、3人は自分がキリストであるとの主張を、次第に控えるようになりました。
そして、ミーティングの際には3人で合唱したり、和やかな会話が増えていきました。
この兆候に関し、
共生の道を探る為のポーズを取りつつも・・・
自分がキリストとの信念は誰も変えていなかった・・・
と考えられています。
7ヶ月が過ぎた1960年2月、ロキーチは強引に状況を変えようと目論見ます。
そして、再び口論やぶつかり合いをさせる為に、3人それぞれに自分だけがキリストだと、改めて主張するよう仕向けました。
しかし、3人はロキーチの提案を拒否し、特にレオンは、
対立を招くだけだ
と反抗しました。

ロキーチは自分の目論見が上手くいかなかった事から、今度は実験が紹介された新聞記事を3人に見せました。
その新聞記事には、次の通り書かれていました、、、
新聞記事:
『 この実験の目的は、同じアイデンティティーを主張する人物によって、その信念が揺さぶられた時、何が起こるのかを観察する事です。 』
しかし、クライドとジョセフは新聞記事に書かれているのが、自分達の事であるとは認識出来ませんでした。
一方のレオンだけが、何も知らされないままに、被験者にされていた事実に気づき、ロキーチに怒りをぶつけました。
更に、レオンは実験から抜けたいと主張し、もはや実験は破綻寸前でした、、、

【 一線を越えるロキーチ 】
1年が経過した1960年7月、ロキーチは大幅な方針転換を試します。
それは、3人が主張する、
自分はキリストとの妄想は無視し・・・
他に抱えている別の妄想を変える・・・
という試みでした。
そして、この方針転換を思い付いた事に関し、ロキーチは話します、、、
ロキーチ:
『 彼らは、これ迄の人生において、重要な人物から深い心の傷を負って来た。 その為、自分以外のあらゆる人間を拒絶して来た。 ただ3人には明らかに、肯定的な見方をしている “ 特定の人物 ” がいる。 』

そこで、ロキーチはレオンに目を付けました。
なぜなら、レオンには、
妄想で生み出した・・・
架空の妻がいた・・・
からです。
そして、レオンが生み出した妻は、
自分を育児放棄した母を・・・
理想的な女性に作り変えたもの・・・
だったからです。
つまり、ロキーチは実験の目的を、
妄想上の人物を利用して・・・
妄想や行動に変化をもたらす事が出来るのか???
に変えたという事です。
しかし、ロキーチは方針転換をする事で、
科学者としての一線を越える
という、道を踏み外します、、、

そして、一線を越える手段が、
ロキーチがレオンの架空の妻に成りすまし・・・
妻からと称した偽りの手紙をレオンに送る・・・
という、嘘と騙しに手を染めたという事です、、、
言わば、
目的の為には手段を選ばず
という事です、、、
そして、実は、ロキーチの妻も社会学者です。
その妻は、一線を越えた当時のロキーチについて話します、、、
妻:
『 当時、彼のそばに私がいたら、「 それはすべきではない 」と諭したはずです。 断じて正しい行為ではありません。 「 やり過ぎ 」だという事です。 』
