冬至という初夢に贈る物語(メタファー) ~パート9~:成長は螺旋状に

【 ハーレムの英雄:(ドッジ) 】

オランダは、海よりも低い場所がたくさんある国です。

だから、水路を整え、高い土手で土地をぐるりと囲んで、水が入り込むのを防いでいます。

そんなオランダのハーレムという町に、ある男の子がいました。

 

男の子は八才で、優しい心の持ち主でした。

お父さんは、水路の門を開けたり、締めたりして、水の流れを調節する仕事をしています。

もし、急に水が増えて、水路が溢れたら、家も、畑も、水に飲まれてしまうでしょう。

 

秋の日の午後、男の子は水路の向こうに住んでいる、目の見えないおじいさんの家に、ケーキを届けに行く事になりました。

おじいさんは、男の子が来るのを、とても楽しみにしています。

 

 

土手を歩いて行くと、水路の水が増えている事に気づきました。

秋にはよく雨が降るので、水がたくさん流れ込んでいるのです。

おじいさんと楽しくおしゃべりをして、一時間ほど経った後、男の子は帰る事にしました。

 

帰り道、タンポポの綿毛を吹いて飛ばしたり、ウサギの足音を聞いたりしている内、気づけば夕暮れになっていました。

男の子はゾッとしました。

暗くなるまで森で遊んでいて、恐ろしい目に遭った子ども達の話が、頭に浮かんで来ます。

その時です。

 

どこかで、チョロチョロと水の流れる音がしました。

見れば、土手のふもとから、水が漏れ出しているではありませんか。

男の子は、水の出ている穴を見つけると、とっさに指を突っ込みました。

 

 

小さな水漏れを放っておくと、やがて水は土手をえぐって、崩してしまいます。

オランダでは、どんな子どもだって知っています。

 

そうはさせないぞ!

男の子は勇敢でした。

指で水を止めたまま、大人が通りかかるのを待ったのです。

 

ところが、辺りはすっかり暗くなり、人は誰も通りません。

「 誰か、来て! 誰か! 」

叫んでも、誰にも声は届きません

 

 

辺りはとても寒くなり、指から腕まで、しびれてしまいました。

全身が痛くなり、もう、指を抜こうとしても、抜けるかどうか分かりません。

朝までこうしているしかない、と、男の子は気づきました。

 

どれだけ心細かったでしょう。

どれだけ家に帰りたかったでしょう。

でも、だめだ

この場を離れたら、水は怒って、土手を突き崩し、町を飲み込んでしまう。

 

僕が守らなきゃ。

翌朝、ようやく教会の牧師さんが土手を通りかかって、苦しんでいる男の子を見つけました。

「 大丈夫か? こんな所で、どうした? 」

「 水漏れを止めているんです。 人を呼んで下さい、急いで・・・・・ 」

 

 

男の子はそれだけ伝えると、力尽きました。

男の子はたった一人で、町と町の皆を救ったのでした。